
北海道拓殖バス株式会社
代表取締役 中木 基博さん
1980年帯広市生まれ。國學院大學経済学部卒業後、関東圏の運送会社に勤務し、2007年にUターンで北海道拓殖バス入社。2020年より代表取締役社長。2024年から十勝地区バス協会会長を務める。
経営者の視点で紐解く、仕事と組織。

北海道拓殖バスに乗ると、運転士の丁寧な対応が目に留まる。乗り降りの際の声かけや質問への受け答え、落ち着いた運転。特別な演出があるわけではないが、気持ち良く目的地まで運んでくれる。そんな印象が残るバス会社だ。その丁寧さは、個々の運転士の資質だけによるものではない。創業以来、代々受け継がれてきた社風の表れなのだという。「そのあたりは結構気をつけていますね。社内の雰囲気が悪いと、お客さんに伝播してしまうので」。そう語るのは、代表取締役の中木基博さん。北海道拓殖バスは、十勝を中心に路線バス・貸切バスを運行する地域交通の担い手だ。前身である北海道拓殖鉄道の時代から、地域の暮らしを支える“足”としての役割を担ってきた。人を運ぶ仕事に向き合う誠実さは、長い歴史の中で自然と育まれてきたものだろう。

現在、3代目として会社を率いる中木さんだが、そのキャリアは入社当初から順風満帆だったわけではない。20代の頃は、「無理に背伸びをしていた」と当時を振り返る。「後継者として見られることを怖がり、ミスをしないように縮こまってしまった。結果的に悪循環でした」。転機となったのは、とあるセミナーで聞いた「社長だってミスをする」という言葉。完璧を目指すのではなく、努力して覚え、指摘を受け止め、次の機会にはきちんと改善する。肩ひじを張らず、できることから積み重ねていく。少しずつ意識が変わっていったという。
2020年、代表取締役社長に就任。しかし直後に訪れたのは、コロナ禍という逆風だった。最初の仕事は、融資書類への押印。「お客さんが一気に減って、会社だけでなく、家族の将来のことまで頭を悩ませました」と当時を振り返る。一方で、幹部社員と覚悟や方向性を共有する時間が増え、会社として結束を強める契機になったのが救いだった。その過程で、中木社長が強く意識するようになったのが、労働環境のあり方だ。人が疲弊すれば、会社は続かない。だからこそ、これからを担う若い世代に選ばれる職場に変えていく必要があると感じたという。その一つが、将来的に休日の日数を増やしていく方針である。無理な運行で人を消耗させるのではなく、長く安心して働ける環境を整えることが、結果的にサービスの質を支えると考えている。あわせて新卒採用についても意欲的に検討中。即戦力だけに頼らず、時間をかけて人を育て、将来の幹部層を社内から生み出していくための手立てでもある。人材の高齢化が進む中、これからも続けていくために、「育てる」ことに舵を切ろうとしている。

また、全国のバス会社に先駆けてQRコード決済を導入するなど、デジタル技術の取り入れも得意な印象がある。2024年には音声合成システムを導入し、早発防止や遅延対策、新人運転士のサポートにもつながっているそうだ。ただし、新しいものばかり取り入れるわけではない。バスの車体は中古で仕入れるなど、投資のかけ方には一貫した考え方がある。「過度な設備投資をしたり、流行に振り回されたりはしないよう気をつけています」。デジタル化で未来を見据えながらも、判断は堅実だ。


新しい技術を取り入れながらも、軸にあるのは人と地域だ。その象徴が、2024年に新得町で開園した観光農園「拓鐵キノコタン」である。原木しいたけの収穫体験を基軸に、拓殖鉄道と拓殖バスの歴史を伝えるこの場所は、目的地をつくる試みでもある。人が訪れる場所になれば、バス会社として人を運び、地域の魅力を次世代へとつないでいけるのだ。


古きを大切にし、新しきを柔軟に迎え入れる。そのバランス感覚が、中木社長の強みだろう。歴史や社風を守りながら、必要な変化を選び取っている。「社員には、日本一になろう、と話しています」と中木社長。それは売上や規模だけではなく、さまざまな分野においてだ。いち早くQRコード決済を導入したことだって、日本一のひとつ。中木社長は「過去に日本一になった成功体験から、自信と誇りをもっていこう」と伝えている。目の前のお客さんに、どうしたら気持ち良く乗ってもらえるかを、考えて実行し続けられる会社であること。その積み重ねで辿り着く先にあるのが、北海道拓殖バスが目指す“日本一”なのだ。

会社データ
北海道拓殖バス株式会社
音更町字然別北5線西37-1
0155-31-8811
2,700万円
7億9,000万円(25年3月期)
134名(うち正社員74名)