
十勝まきばの家ワイナリー
醸造・栽培 金澤 正樹さん
埼玉県出身。上智大学を卒業後、大手メガバンクへ入社。2019年にはイスタンブール支店所長として多層的なファイナンス実務の指揮を執った。2022年より十勝まきばの家ワイナリーに入社。
メガバンク銀行員からワインの醸造家へ。
近年、新たなワイナリーの誕生が相次ぐ十勝エリア。ワイン用ブドウの栽培には不向きとされる寒冷地だが、厳しい寒さを逆手に取った独自品種「山幸」の開発・栽培を軸に、ワインの産地として知られるようになった。現在管内には、個性豊かな5つのワイナリーが点在している。
2021年に新設した十勝まきばの家ワイナリーは、十勝で4番目にできたワイナリー。小高い丘の上に位置し、宿泊施設やレストランを備えた複合リゾート施設としての顔も持っている。ここでワイン造りに携わる醸造家の一人が、金澤正樹さんだ。縁のなかったこの土地へ移住した金澤さんは、元メガバンクの銀行員という、醸造家としては珍しい経歴の持ち主でもある。

上智大学法学部を卒業後、某メガバンクに入社した金澤さん。最初に配属された営業部では、自転車で泥臭く外回りに奔走する日もあったという。その後、法務セクションや上場企業営業担当を経て、2019年にはイスタンブール支店の日系・非日系の責任者として中東へ赴任。現地スタッフと共にトレードファイナンスやプロジェクトファイナンスなど、数多くの案件を担ってきた。
銀行員としてキャリアを積み上げながらも、遠い未来には憧れていた農業への転身も視野に入れていた金澤さん。そんな中、コロナ禍が大きな転機をもたらした。目まぐるしいマネーの動き。停滞する社会の空気とは対照的に、金澤さんが身を置いていた金融業界は激動の渦中にあった。インターネットさえあれば場所を選ばず仕事ができてしまう環境から、深夜の3時まで業務に没頭する日々が続いていたという。忙しない日々の中で、金澤さんの中にある違和感が募った。「こんな働き方をするよりも、今こそ自分のやりたいことに真に向き合うべきではないか」。
当時在職していたトルコ・イスタンブール支店は、偶然にもワイン発祥の地。その歴史は紀元前6000年にまで遡るとされている。もとよりワイン愛好家であった金澤さんは、現地のワイナリーを巡り、関連書籍を読み漁った。枝を離れたブドウは、発酵というプロセスを経てワインとして甦る。ブドウの力強い生命力に背中を押された金澤さんは、醸造家を目指して、日本のワイナリーを訪ね続けた。営業職としての採用ばかりを提示される中、未経験でも醸造家として受け入れてくれたのが、十勝まきばの家ワイナリーだ。池田町ブドウ・ブドウ酒研究所の元所長である中林司氏と内藤彰彦氏が実践する、極めて化学的なワイン造り。ワインを一つの「液体」として捉えた、ロジカルなアプローチは、金澤さんの目に鮮烈に映ったという。理系的な知見を要するなど、前職からのギャップは大きかったが、「仕事の本質は変わらない」と金澤さんは言う。「どこで、どんな仕事をしていたとしても、根底には人とのコミュニケーションがある。だから大丈夫です」。その確信が、異業種への挑戦を支える揺るぎない土台となっている。

醸造家のキャリアは今年で5年目。いま金澤さんが目指しているのは、エリアごと十勝のワインの価値を底上げすること。銀行員時代の経験を土台に、ブドウ畑の景観と造り手のバックストーリーを組み合わせたツーリズムを計画中だ。地に足のついたワイナリー運営を目指すなか、大切にしている言葉がある。「右手にロマン、左手にソロバン、背中にガマン、心にジョーダン」 。親交のあるワイナリーの壁に掲げられていた格言だ。理想と現実のバランスを取り、逆境を耐え忍びながらも、常にユーモアを忘れない。その言葉は、金澤さんの道標となっている。

十勝まきばの家ワイナリー
池田町清見144-1
015-572-6000
株式会社大地
2,000万円
25名