好きなことを好きな場所で、夢を実現するための基盤を

地域おこし協力隊を卒業後、活動していた地域に定住して起業したり、地域の企業や団体に就職したりと、任期中の活動経験を活かした仕事をしている協力隊経験者がたくさんいます。東京都出身の長谷川彩(さい)さんもその一人です。

長谷川彩さん。2024年3月、大樹町地域おこし協力隊を卒業し、現在は「月のうらがわ書店」の屋号で移動書店などの活動に取り組んでいる。

憧れだった北海道で、大好きな本にまつわる仕事を。

元々北海道が好きで、いつか移住したいと考えていた長谷川さん。まずは、長く暮らしていくためにも手に職を付けようと、東京で大好きな本に関わる仕事に就いた。最初は書店員として働き、その後はブックディレクションの会社に就職。そこで選書の知識や記事の取材・執筆など、本に関する幅広いスキルを身に付けていった。

そして、30歳を迎えたタイミングで仕事に区切りを付け、北海道移住を決意。本に関わる仕事を地域の中で実践できればと、地域おこし協力隊の道を探した。当初はオホーツク方面の自治体を検討していたものの、なかなか条件に合う町と巡り合えなかったそう。そんな時に知人を通じて知ったのが、大樹町の地域おこし協力隊だった。

「当時私が応募した協力隊はフリーミッション型。週4日の勤務の中で自ら活動内容を決めて動ける上、一定の範囲で副業も認められていたのが魅力的でした。こうした自治体は、当時ほかにほとんどなかったと思います」。こうして2020年9月、長谷川さんは地域おこし協力隊として新たな一歩を踏み出した。

協力隊の活動を通じて、地域とのつながりを深める日々。

長谷川さんが協力隊として目指したのは、地域と本を結び付けること。町民に本を手に取ってもらえる機会を増やそうと、さまざまな活動に取り組んだ。その一つが大樹高校の図書室整備だ。それまで手つかずの状態が続き、古くなって傷んだ本も多かったという図書室。前職の経験を活かし、本の廃棄から選書まで抜本的に手を入れることで、高校生にとって居心地の良い場所に整えていった。時代や生徒の年齢層に合った本を揃えることで本に興味を持つ生徒が増え、昼休みや放課後に図書室で過ごす姿も見られるようになったそう。

また、冊子制作などを通じて、地域の情報発信にも取り組んだ。その一例が「大樹町子育て応援手帳」。町内の子育てサークルで進められていた企画に、編集経験を持つ長谷川さんが加わることで、制作を本格的にサポート。前職で培った編集や執筆のスキルを活かし、地域の子育て支援情報をわかりやすくまとめた、使いやすい一冊を作り上げた。

こうした活動を通じて、次第に町民との信頼関係も深まっていったという。「最初は外から来た人間として不安もありましたが、協力隊として地域に関っていくことで、徐々に信頼してもらえるようになりました」。やがて地域の人からも、「本のことなら長谷川さん」と認識されるように。地域とのつながりが強まるにつれて、活動の幅も広がっていったそうだ。

月のうらがわ書店の出店は月に数回程度。場所や日時はInstagramをチェック。

協力隊で繋がった縁を大切に、十勝に根差した活動を。

現在、長谷川さんは十勝を拠点に、読書会の企画運営、ウェブや雑誌での記事執筆、書籍や冊子の編集など幅広く活動している。中でも特徴的なのが、移動書店「月のうらがわ書店」の運営だ。協力隊時代、知人の誘いでイベントに出店したことがきっかけとなり、現在も店舗の一角を間借りしたり、イベントに出店したりしながら本を販売している。扱うのは、一般の書店では埋もれがちな本や、手に入りにくい本。書店が少ない地域において、本との出合いを提供する場になればとの思いから、今も大切にしている仕事の一つだ。

「地域おこし協力隊の良いところは、『協力隊』という肩書きがあることで地域に溶け込みやすくなる点です。おかげで、自分がやりたい活動をしやすかったですね」。さらに、最長3年という任期の間に給与が保証され、安定した環境で活動の基盤を築けたことも大きかったと話す。「やりたいことがある人にとって、地域おこし協力隊はとても良い制度だと思います。その分、どの地域を選ぶか、条件に合う場所を見極めることも大切ですね」。

今後は、本に関する活動を主軸にしながら、勉強中の韓国語を活かした仕事にも挑戦したいと考えているそう。協力隊で築いた基盤は、これからも活動の支えとなり、さらなる広がりを見せていくだろう。

長谷川さんの十勝暮らし

地域と本をつなげる仕事

協力隊の活動の一環で、大樹高校の図書室を整備。少しずつ生徒にとって使える本棚にバージョンアップした。
現在もコーディネーターとして勤務中。

これまで手がけた紙ものいろいろ

大樹町の子育てに関する情報を集約した冊子から、十勝にまつわる本を集めたリーフレットまで。前職で培ったスキルをフル活用。

本との出合いを楽しめる移動書店

長谷川さんとの会話を楽しみながら、知らない本と出合えるのは大型書店にはない魅力の一つ。

月のうらがわ書店
住所 移動本屋のため公式Instagram確認