株式会社 e-style

不動産経営の視点から空き部屋の対策をアドバイス

帯広で物件探しをすると、あちこちのマンションで「インターネット無料」と書かれたイースタイルの看板を目にすることになる。イースタイルは、マンションの世帯ごとにWi-Fiのアクセスポイントを設置する通信事業で、業績を伸ばしてきた。これまで帯広本社と札幌営業所で手がけた工事は、道内外を合わせて9500世帯に上っている（2015年10月現在）。
営業から機器設置の工事、さらにその後のサポートまでを行うが、帯広本社と札幌営業所を合わせて6人のスタッフのみで、すべての業務を取りまとめているというから驚かされる。代表取締役の阿部勝利さんは、「小さな会社なので営業であっても工事の知識が必要だし、時にはサポートセンターの電話を受けてもらうことも。その分従業員は全員知識が豊富ですから、細やかで柔軟性のある対応が可能です」と話す。
阿部さんはとにかく前向きで勉強熱心。仕事に打ち込む傍ら、宅地建物取引士や不動産コンサルタントといった資格を取得してきた。インターネットと不動産では共通点がないように思えるが、「お客様のほとんどは賃貸住宅の大家さん。単にインターネットの回線を手配する業者としてだけでなく、状況に合った提案をしたくて」と、笑顔で話す。

電話でのサポートは年中無休で行っている。知識豊富なスタッフによる、スピーディーかつ丁寧な対応が利用者に好評だ。

大家がインターネット無料のサービスを検討する理由の多くは、空き部屋対策。今やインターネットの料金も、物件を選ぶ際の決め手のひとつになっているからだ。しかしインターネットを無料で使えるマンションのほとんどは、その費用を大家が負担している。物件によっては空き部屋を減らすどころか、貸し主側の負担が大きくなる場合も。例えば築30年を超えるアパートで、ほとんどの居住者が高齢者ということなら、回線を引くメリットは、ほぼないだろう。阿部さんは「設置することでお客様が損をしてしまう場合は、工事をお断りしています」ときっぱり。確かに申し込みをすべて受け入れれば、一時的に売り上げは増える。しかし長い目で見ると、客の損失は会社の信用を失うことにつながってしまうのだ。
そうした賃貸経営における戦略のミスマッチを防ぐため、阿部さんは帯広市内で定期的に、勉強会「大家塾」を開催している。通信事業を通じて「物件を購入することをゴールと考えてしまい、運営につまずく家主が多い」と感じたからだ。不動産の知識を活かしたアドバイスをすることで、客との信頼関係を積み重ねていくことを目指している。
賃貸経営のアドバイザーとしても活躍の場を広げる阿部さん。しかし事業のスタートは、前途多難なものだった。2008年、勤務していた会社の事業を引き継ぐ形で、起業を決意。「右も左もわからない状態で、とにかくがむしゃらでした」と当時を振り返る。自ら営業先を開拓し、従業員にゲキを入れる日々。一生懸命になるほど周囲との温度差を感じ、空回りした時期もあった。そうした失敗から阿部さんは、「全員で会社の理念や方針を共有する」ことを大切に考えるようになった。週に1度は全社員でミーティングを行うなど、どんなに忙しくても、話し合う時間を持つようにしている。

阿部さんが取得した資格の数々。賃貸物件に関するアドバイスも好評だ。

目標を一つずつクリアすることで、成長を遂げたイースタイル。今後の目標は「5年後に、全道を中心とした5万世帯の契約を実現する」ことだ。3年前に立ち上げた札幌営業所も好調で、今やその数字は帯広本社の売り上げに迫る勢いなのだとか。本社を札幌に移し、一気に勝負に出る選択肢もあるだろう。しかし阿部さんは「そのつもりはありません」と言い切る。「お世話になった十勝に、恩返しをしたいという思いが一番です。しかも今はインターネットを通じて、どこででも仕事ができる時代。今後も会社の指揮を執る場所は帯広と決めています」。地元で足場を固めつつ、夢はさらに大きく。地方での新しい働き方を、イースタイルが発信してくれるに違いない。