企業の育てる右腕人材「株式会社満寿屋商店」
十勝の企業が魅力的なのは、そこで働くメンバーが魅力的であるからにほかならない。社長の下で組織を支える「右腕人材」が経てきたキャリアと、その仕事についての特別対談。今回の対談は株式会社満寿屋商店。

株式会社満寿屋商店
常務取締役 天方 慎治さん
1975年6月生まれ。神奈川県川崎市のパン屋の息子として生まれ、高校卒業後は都内で約10年間修業。2003年、当時働いていた店で「ミクニサッポロ」のオープンに伴う社内公募があったことをきっかけに北海道に移住。その後、より小麦の生産地に近い場所で働きたいと十勝へ。杉山社長の熱い思いに共感し、2009年の旗艦店「麦音」オープン時から参画している。
株式会社満寿屋商店
とかちパン王国準備室室長兼広報担当課長 大川原 典宏さん
1983年7月生まれ。 帯広市出身で、学生時代より関心の高かった放送業界に進む。地元のコミュニティラジオ局に12年半勤め、パーソナリティ兼局長として活動し、営業やスタッフマネジメント、イベント企画・運営まで幅広く担当。小麦キャンプというイベントを通じて杉山社長と親交を深め、ラジオ局を退社後、誘いを受け満寿屋に2020年入社。
先駆者と共に走り続ける満寿屋ファミリー。
株式会社満寿屋商店は1950年創業の老舗ベーカリーだ。十勝管内に7店舗を構え、地元の人々の食卓を支えると共に観光客からも人気の十勝グルメとして名を馳せている。しかしながらこのパン屋、知れば知るほどその底知れなさに驚きとワクワクが止まらなくなる。日々のパンの製造と販売の根底には、「2030年までに十勝をパン王国にする」という壮大なビジョンがある。そのロードマップの中でも、ひときわ人々の想像を超えるプロジェクトが2026年春に実現する。日本一敷地面積の広いパン屋として知られる旗艦店「麦音」。その敷地内に馬牧場が誕生するのだ。パン屋に馬牧場ができるなど一体誰が想像しただろうか。理想を現実にしていくために先頭を走る杉山雅則代表。その背中を支え、共に走り続ける右腕、左腕ともいえる存在である天方慎治さんと、大川原典宏さんに話を聞いた。
本日はよろしくお願いします。お二人とも満寿屋には中途採用での入社でしたよね。入社の経緯を教えていただけますか?
天方 北海道でパンづくりがしてみたいと20代後半で移住して、しばらく札幌で仕事をしていました。北海道でパンを作っていると十勝に興味を持つ機会はたくさんありまして、決定的だったのは本別町で小麦を生産している前田農産食品の前田さん(52ページ掲載)に会ったことでした。十勝産小麦の魅力に触れ、十勝で働きたいと思うようになりました。十勝での最初の就職は別のところだったのですが、あまりうまくいかず別の道を探していたとき、当時お世話になっていた江別製粉の方に杉山を紹介してもらいました。私と同世代の三代目が、新しい「麦音」という店舗をつくって十勝を盛り上げたいと頑張っているんだが、苦戦しているらしいと。当時杉山の中にはすでに「2030年に十勝をパン王国にする」というビジョンがあり、会った時にはロードマップを広げながら熱心に語ってくれました。でも、なかなか思うように進まないと正直に話していて。それを聞いて、もしかしたら私が協力できることがあるかもしれないと思い、2009年に満寿屋に入社しました。
大川原 私は長くラジオ業界で働いていて、パーソナリティはもちろん、イベントの企画運営や営業など幅広い業務を行っていました。満寿屋はラジオ局のスポンサーでもあったので、当時から関わりはありましたが、杉山と一緒に何かをするという機会を得たのは小麦キャンプというイベントの実行委員会に入った時です。十勝の小麦に関わる生産者、製粉業者、パン職人が集まって、小麦を体感するツアーや勉強会、交流会などさまざまな企画を共に行ってきました。35歳を迎えた頃、ラジオ局の仕事が非常に不規則で激務だったこともあり、この先ずっとこういう働き方ができるのかと考えるタイミングがありました。そこでいったん区切りをつけること、小麦キャンプの実行委員会も抜けることになると杉山に伝えたところ、「それなら正式に弊社にお誘いしてもいいですか?」と声をかけてもらいました。ほかにも誘いはありましたが、私もロードマップの話を聞いて、「麦音を地域のいろんな人と関われる、より愛される場所にするために力を貸してほしい」という言葉に惹かれました。その頃は満寿屋内で働き方改革を行っている最中でもあり、魅力的な環境だと感じて満寿屋ファミリーの一員になることに決めました。


お二人とも杉山社長のビジョンに共感して入社されたんですね。入社から現在までどのようなお仕事をされてきたのでしょうか?
天方 私はパン職人ではありましたが、入社当初は現場には入りませんでした。地産地消部という部署を新たに作ってもらい、5年ほど地域向けにパン作り教室を開催したりイベントを企画したり。あとは生産者と交流を持つことをメインに活動していました。現場で製造を担ってくれる職人たちがいたからこそ、私は別働隊としてビジョン達成のための事業に集中できました。普通のパン屋ではこういうことは、人手の問題もありなかなかできないことだと思うので、ありがたい限りです。
大川原 普通はそうですよね。
天方 その後、人員の都合で製造部長として現場に入る経験もしました。現在は常務取締役兼麦音店長として、麦音全体の管理や人事を担当しています。製造に入るのは人手が足りなくてシフトに穴が空きそうな時や、新商品開発を現場でどう作るか落とし込むタイミングですね。
大川原 私はまずパン屋の仕事の流れを理解するために、販売のほうに入りました。元々ラジオで毎週商品を紹介していたこともあり、商品知識があったのでレジ業務は比較的スムーズでした。イベントでの売り子経験も活きましたね。その後、とかちパン王国準備室の室長となり、ビジョン達成に向けたイベント事業の企画運営、広報関連、あとは他企業とのコラボレーションを担当しています。外に打ち合わせに出かけることも多いです。


満寿屋は地域活動が非常に活発な印象がありますが、具体的に教えていただけますか?
大川原 そうですね。現在はインデアンカレーで有名な藤森商会さんとコラボ商品を開発する事業を行っており、毎年新商品をリリースしています。地域の皆様から多くの反響をいただく企画なので打ち合わせにも力が入ります。また教育機関との連携も年々増加していて、小学校から高校まで幅広く出向いてピザづくり体験や地域探求の授業を受け持っています。地域の子どもたちと関わる重要性を強く感じていますね。
大川原 以前、小学校でピザづくりを体験したという子が今年新卒で入社してくれました。その時の記憶がずっと残っていて、パン職人を志し、専門学校を出て十勝に戻ってきてくれたのはうれしかったです。杉山は子どもたちへの食育や地域教育をとても大切にしています。小麦は十勝の文化であること。その価値をきちんと伝えていきたいという思いです。ピザづくりの体験も気づけば900回を超えていると思います。
さて、2030年まであと4年と迫ってまいりました。十勝をパン王国にするというビジョンに向け、現在動いていることは何でしょうか?
大川原 今年の春、麦音の敷地内に馬牧場がオープンします。開拓の時代から、開墾や農業にと十勝にとって馬は欠かせない存在でした。また食の循環という意味でも馬糞が肥料となり畑を豊かにし、おいしい小麦が育つというサイクルがあります。馬牧場は十勝という地域の循環を体感できる象徴的な場所として活用を進めていきます。ただ、これは一つの場を作ったという話で、十勝がパン王国になるというビジョンは弊社だけでは成立しません。十勝全体がつながり共に小麦の価値を高めていく必要があります。「米がおいしい」と言うことはありますが、「小麦がおいしい」とはなかなか言いませんよね。パンがおいしいと感じた時「小麦がおいしいからだ」と思ってもらえるような、そういう価値観を作っていく活動を積み重ねていきたいです。日本一小麦が穫れるところだから、パンがおいしい。そういう風に十勝のことを思ってもらいたいです。
天方 私たちのこういった活動は十勝のつながりのためですが、地域の輪がしっかりとつながれば全国にも広がっていくはずです。十勝産小麦がおいしい、北海道産小麦がおいしい、日本の国産パンはおいしい、すべてがつながっています。だからこそ独立も快く応援しています。十勝がパン王国になるために必要なことですから。
満寿屋の取り組みが起点となって、十勝全体に広がっていくことが大切なんですね。たくさんの方に関わりを持っていただきたいものです。最後に、お二人にとって杉山社長とはどのような存在でしょうか?
大川原 杉山は行動が早くて誰よりもアグレッシブですね。気がつくと「あれ、社長どこいった?」と探してしまうくらいのスピード感で走っていく印象があります。こうしたエネルギーが新しいチャレンジを次々と生み出していると思います。こんなパン屋、ほかにはありません。
天方 杉山とは同世代で、お互いにパン屋の息子として生まれ育ちました。境遇が似ているんです。私はパン屋を職人として継ぐためにさまざまなお店や会社で修業してきました。だからこそ思うのですが、会社は本当に社長次第です。社長が正直であることが何より重要。杉山は正直過ぎるくらいですが、その素直さが全力で事を成そうという行動力につながっているんだと思います。事業を成功させるというより、地域全体でそうなりたいと強く思っている。そういうスケールの大きさに私は凄みを感じています。だからこそ私たちはそれぞれの専門分野でしっかりと支えていきたいですね。

会社データ
株式会社満寿屋商店 麦音
帯広市稲田町南8線西16-43
0155-67-4659
1,000万円
10億1,300万円(24年6月期)
195名(うち正社員61名)